白昼夢の青写真(PC版、Switch版)の感想です。ついでに朗読劇の感想も。
余談ですが、こいつの感想を投げたくてブログを始めた節はあるけど2周目してから書くか…とか思ってたら随分と経ってしまいましたね。初プレイは1年弱前でした。Switch版が出るよ~ってことで、前々から気になってたけど手を出せていなかったPC版を買いました。
Switch版でコレクターズボックス出ると聞いて、まあPC版プレイして良かったらそっちも買うかくらいの気持ちでしたが、完走したその勢いのままコレクターズボックス予約してましたね。
あらすじ
CASE1
2016年、夢見市。
主人公の有島芳、45歳は非常勤講師として学園で授業をしている。退屈でつまらない繰り返しの日々を坦々と続ける中、大学時代の恩師の訃報を聴く。
恩師の告別式の場で有島は学園の生徒である波多野凛を見つける。彼女は、有島が大学時代に出会い、大人気作家となった波多野秋房の娘だった。
小説家を目指し、秋房との差を見せつけられ筆を折った有島は、凛との出会いにより、また筆を執り、惹かれていく。
CASE2
1595年、イギリス・テンブリッジ
主人公のウィリアム・シェイクスピアは盲目の父を支えながら酒場を経営している傍ら、劇作家として脚本を売って生活している。
ある時、ウィルは脚本を渡すため貴族の家に赴く。広大な敷地に大きな屋敷、放し飼いにされている鹿。自身の生活との差に絶望し、生活苦から抜け出そうと、鹿を盗もうと画策するも捉えられる。
捕まった先でウィルは、オリヴィア・ベリーに身請けされる。オリヴィアは舞台役者であり、ウィルを殺さない代わりに自身の一座で脚本を書くことを要求した。
生活苦、宗教弾圧、身分制度の差、女の立てない舞台。様々な障壁を抱えながらウィルはオリヴィアの座付き作家として、また役者として物語を紡ぎ始める。
CASE3
2061年、鳴山市。
主人公の飴井カンナは、カメラマンだった今は亡き母を追うように、カメラを携えて写真を撮っていた。母が求めた彗星の写真を撮ろうと、日々写真を撮り続けた。
学校に行かずカメラに明け暮れる日々を送っていると、学校の教育実習生だという桃ノ内すももが現れる。学校に来て欲しいという彼女の誘いには耳を傾けないカンナだったが、写真を撮りに行ったときに、カンナの下に訪れた時と全く違う風体のすももに出会う。
カンナの撮る写真に惹かれたすももは、カンナの夢を応援しようと、カンナを手伝うことになった。母の持っていた壊れた車を修理しに来た梓姫も一緒に、カンナは間近に迫った彗星の写真を撮るための一夏を過ごし始める。
CASE0
主人公の海斗は、目が覚めると真っ白な部屋に居た。その部屋には出入口が一つ、ベッドが二つ、鏡付きの洗面台が一つ置いてあるだけの真っ白な部屋。そして、もう一つのベッドで眠る少女、世凪が居た。
彼女はどこか虚ろな目で、会話もままならない。長い白髪に赤い眸を持つ、触れたら壊れてしまいそうな少女だった。
知らない部屋、知らない少女、抜け落ちている自分の記憶に混乱していると、扉が開き、誰かが入ってくる。入ってきたのは、自らを出雲と名乗る少女型のヒューマノイド。彼女は混乱している海斗に対して、状況を簡単に説明した。
彼女が言うには、海斗は実験の渦中にいる。夢の内容を記録すること、そしてその果てで世凪を救うことがこの実験の目的だと言う。
3つの夢、世凪という少女が何者なのか、そしてこの実験は誰が行っているのか。不可解な謎を抱えながら、出雲の夢を見続ければ実験は終わる、という言葉を信じ、海斗は再び眠りにつく。
登場人物
CASE1 波多野凛
学園に通う学生。
大人気作家の波多野秋房を父に持つが、父は亡くなっており、現在一人暮らし。
常に一人で本を読んでおり、学園内でも他人との交流は殆ど無いが、波多野秋房の娘ということもありどこか浮いた存在となっている。
負けず嫌いで意地っ張り。
CASE2 オリヴィア・ベリー
テンブリッジに住む貴族。ハロルド・スペンサーと共に暮らしている。
スペンサーに資金援助を受けながら、グローヴ座で劇団の座長を務めている。
同時に女優として舞台に立ってもいるが、舞台に女が立つことは禁じられている為、男装して役者をしている。
プライドが高く、強気。
CASE3 桃ノ内すもも
教育実習中の学生。
教育実習中はウィッグを被り真面目な雰囲気になるよう変装しているが、普段はオシャレ好きでお気楽な性格。
過去は夜職をやっていたこともあり、男関係も多々あった。しかし、謂れのない言葉を言われ、そんな奴らを見返してやろうと教職を取るため教育実習を行っている。
自由奔放で明るく元気。
CASE0 世凪
謎の少女。
言葉は覚束なく、意思疎通が出来ているのかが分からない。
長い白髪に赤い眸。夢に出てきた3人にどこか似ている。
感想・総評(ネタバレなし)
とにかく凄い。シナリオの完成度があまりにも高かったです。
CASE1~3の舞台設定はLaplacianの過去作に則ったものだったので(既作3作プレイ済)割とメタ的というか本筋と関係ない遊び心的な部分が強いのかなと思ってたけど、そんなこと感じさせない位にはそれぞれがちゃんと話として面白くて、しっかりと完結していた。(もちろんファンサービス的な意味合いの軽い演出は色々とあったが、本筋を邪魔しないものだった)
CASE1~3を見ていく中で少しずつCASE0のシーンが挟まれ、徐々に徐々に全体の構造であったり、何らかの共通点が見えてきたりとしてきた。
ゲームとしての構成で言うと、CASE1~3の話は細切れぎみというか要所要所でCASE0の話が挿入されたり、各CASEが終わらないまま別のCASEに行く、といったものになってて、そうなると少し読みづらいかな?と思ったけど、実際そんなことは殆ど無かった。CASE1~3はどれも舞台も登場人物もストーリーも全然違うお話なので、分割されまくっててもそんなに混乱することなくCASE移行できた記憶。もちろん人によっては分かりづらくなったり、プレイ自体に時間空け過ぎちゃうと余計に分かりづらくなるかもしれないけど。
そしてCASE0。ここまで紡がれてきたCASE1~3の話から最後に進むCASEになるが、ここが本当に凄かった。
道中で少しずつ提示されてきた世凪や海斗の話、研究の目的などの回収はもちろん、ここまでに見てきた3つの話に関する様々なことも色々な方向から回収してきて、そこに気づく度にどんどんと面白くなっていった。
全体の構成、内容、伏線の張り方どれをとってもあまりにも上手すぎて、ひっくり返りましたね…
全然内容の違う各CASEの内容すべてが意味のあるものとしてCASE0に繋がっていく話の展開に驚かされっぱなしでした。
ストーリーと同時に凄い惹かれたのは音楽。劇判ももちろん良いのですが、なんといってもボーカル曲が凄い。各CASEにOP,EDが用意されていて、OPには映像付きの豪華仕様。公式様が楽曲、BGM全公開しているという謎状態なのでまずは曲だけでも。
どれもいい曲ですが、一番好きなのはCASE0のOP「Into Gray」
音楽としても凄い良い曲なんですが、歌詞が本当に色々と含まれていたり、OP映像の方も良くて、完走した後に見るとまた違った感じ方が出来て辛くなります。
ちなみに、CASE1~3のEDは、それぞれ舞台設定の元になったLaplacian過去作の楽曲のリアレンジVerです。
各CASEの内容も、全体の内容も非常に面白かったです。構成上いろいろな話が移り変わるので、中だるみだったり飽きが来ないままスッと走り抜けられたので読みやすかった。でも描写がしっかりとしてたので没入してしっかりと楽しむことも出来て本当に良い作品でした。
PC版とSwitch版両方やりましたが、Switch版は結構CGが追加されていたり、シナリオの加筆修正やおまけの追加など様々あって2周目でも面白かった。
もちろん、全てを知った上で改めて最初から見ると様々な発見もあるので、普通に2周推奨ですね。
一体何を食べたらこんな話が思いつくのか不思議なくらい綿密に作りこまれた凄い作品でした。
感想・総評(ネタバレあり)
本当に恐ろしい作品でした。伏線回収の仕方が意味わからん位凄くて、その上で各CASE単体でも十二分に面白くて、CASE0の怒涛の展開に辛くなってました。
個人的な好みとしてはCASE0>2>1≧3かなぁ。CASE1~3は単体で見た時の総評。CASE0と絡めるとCASE1がめっちゃ化けちゃうので…
以下各CASE感想。単体感想もCASE0考慮した感想も混ぜてます。
・CASE1
あまりにも深くて暗い人間の話。正直気が滅入る位には重くてキツイので二周目読むのはちょっと大変だった()
傲慢で独りよがりで妄想が激しくて自棄的な有島の姿が終始ヤバかったね。人間的な意味で。自身に対して諦めと達観をしている、と自分の中で思ってるのだろうけど、その実夢は捨てきれてないし瓦解しかけた夫婦関係に対してもどこか希望ではないが、崩れないでギリギリ保っている状態に対して何らかのプラス方面の感情が深層にあったように感じる。表層意識の上では日々繰り返すつまらない人生を惰性で続けている、と言っていたが、心の奥底ではその現状を認められていないし、まだ自分は何かを為せると微かにでも思っていた気がする。その結果が秋房への陶酔と同一化に繋がったのかなと。
雲の上の存在であった秋房の日記を読んで、こいつは自分と一緒だ、だからこいつの言葉は俺の言葉であり、こいつの考えは俺だけが共感してやれる。あまりにも傲慢で自意識過剰で、それ故すごく人間らしいなって思いました。
凛も大概ヤベーやつでしたが、ある種年相応な感じはあったかもしれない。嫉妬っぽくて負けず嫌いで、どこか思い切りがいい感じは相応の少女らしさを感じた。年齢公開されてないけど。
CASE0でも触れられてたけど、一番世凪に近いのが凛で、世凪が自分と向き合うために書いたものだから、CASE0との繋がりが一番強くてその分怖い話だった。
CASE0を進めていくにつれて(割と序盤で判明するが)CASE1~3が世凪の作り出した話であることが分かって、その上で世凪自身の考えとかがいろいろな形で各CASEに反映されていることが判明していったけど、CASE1の内容の回収が一番ゾクッとしたね。
CASE1の代表的(と勝手に思ってる)「先生、助けて」のシーンのCGがCASE0の重大な転換点でぶち込まれたときは流石にヤバすぎないか?と思いましたね。
そこから更に、世凪の母親の似顔絵が現れるわけですが、これもまた衝撃的というか、インパクトが強かったね。
他に比べてCASE1の登場人物の投影は割と分かりやすいと思ってて、その中で世凪の母親にあたる立ち位置の祥子がどう描かれていたか、凛に対してどういう感情を向けられていたのかは一目瞭然よね。
強い敵対感情と嫌悪感を向けていて、ついでに言えば役割的には有島を捨てて別の男の下に行ったっていう部分も寄せてきてる。ストーリーとして有島にも非があるように見せたのは世凪自身が母親のことを深くは知らないからなのだろうか。
CASE1単体としては、主人公の有島の感情が色濃く滲み出てたかなーって思うんだけど、CASE0を見た後だと、有島の強い感情に対して添えられた凛の感情が色々と出ていて、読み解いていくにつれて世凪という少女の抱えている思いや痛みが節々に置かれてた。二周目やった時には特に強く感じたかなぁ。
・CASE2
単体のストーリーとしてはぶっちぎりで面白かったと思う。ベターなストーリーといえばそうではあるんだけど、史実物としての完成度も高くてすごい良くできてると感じた。
CASE2に限らず他CASEもだけど、ハッピーエンドで終わらないってのがこのCASEでは特に効いてた。CASE1感想のとこでも書きましたが、初見の時はCASE2を最初にやったんですが、話読んでて、面白いのはもちろんだけど、ありがちなサクセスストーリーというか、生活に苦しんでる青年が偶然の出会いをきっかけとして自身の才能を見つけて仲間たちと協力して成功して…みたいな展開だと考えてたけど、そうはいかなかった。
最後の別れを除けば割とハッピーエンドルートっぽい流れだったけど、宮廷演目を成功させても別れの運命は覆らず、最終的に道を分かつことになったのはちょっとびっくりしたよね。エリザベス女王が、感動した!スペンサーは何とかしとくから女優として生きていけ!みたいなことでも言うんかなとかちょっと思ってたけどそんな浅くなかったです。別れの運命は変わらなかったからこそ、最後のロミジュリがより映えるというか、ウィルとオリヴィア、劇団の皆でつかみ取ったチャンスみたいな感じが強まったなぁと。
CASE0を踏まえた立ち位置で言えば、オリヴィアは世凪の考える”強い女性”像で、そこがちゃんと出てたなぁと。凛はもちろん、すももも世凪の面影を強く残してるけど、それに対してオリヴィアは割とかけ離れている感じで。読み進めていく上で、もちろんヒロイン3人の見た目の類似性についてはチマチマ言及されてた分、オリヴィアには多少の異質さは感じてたけど、CASE0で説明聞いて結構納得した。
小説としてのCASE2を見ると、(他にも書いてるだろうが)最初に書いたCASE3、最後に書いたCASE1とあって、世凪の執筆活動的にはちょうど真ん中位に書かれたもので、そこで史実であったり自身の体験と近いものとして作家の話を書いてるのは、すごいそれっぽいというか、小説家が通ってそうなルート。小説家じゃないから知らないが。
自身の小さな夢や望みを書いたCASE3、自身の体験を基にしつつ史実として一般化もしながら書いたCASE2、自身の心情により深い部分で向き合って書いたCASE1。世凪の精神年齢に沿って各CASEの根っこの変遷が見えてきて、ちゃんと”世凪が作った物語”っていうのを大事にしている感じがあって良い。
・CASE3
こっちはCASE2以上に直球というか、恋愛ものらしいストーリーだった。ボーイミーツガールの典型例みたいな。
夏、不登校児と先生、数十年に一度のイベント、亡き母の想い、愉快な仲間…要素だけ見ればなんとなく見覚えの有りそうな話だけど、ここで効いてくるのが世界観よね。
未来ラジオと人工鳩はプレイ済みだったので、世界観がスッと入ってきたのもあるけど、すごいあの世界らしさを感じた。どこか不便で、なんとなく原始的で、人工鳩に支配された鬱屈した世界と垣間見える自然風景。すごいエモい雰囲気を感じてましたね。他CASEに比べても終始平和なので穏やかな気持ちで読んでられた。
CASE0と併せて見ると、幼少の世凪が考えた”桃ノ内すもも”とかいうトンチキネーミングに、恋をしたいっていう小さな願望、海斗(カンナ)に対するお姉さんらしく振舞いたい気持ちと、海斗(カンナ)のしている努力や持っているモノに感じている憧れや羨望のような感情がストレートに表現されてて、こういった背景も含めて甘酸っぱい恋愛小説みたいになってて二度おいしいですね。
・CASE0
まずは幼少期の出会いから。所謂幼馴染枠的なものだと思うんだけど、こう出会いからしっかりと描いてる作品って意外と少ない気がしている。
CASE1~3もだけど、CASE0でも伏線の張り方というか世界観の見せ方が凄い綺麗だなって感じてます。海斗と母親、世凪との出会い、新たな興味への道や色々な発見、世界情勢、社会制度、現実の不条理さ、大切な人との別れ。余すところなく世凪と海斗の出会いを書いていくのと同時に、全く蛇足にならない形で世界観の説明やこの先への伏線を張っていて、ストーリーの組み立ての上手さが異常すぎる。
学校で遊馬先生が話してたパラグルコースの話、もちろんフィクションなんだけど、読んでるこっちとしても普通に面白い話だったので私も遊馬先生の講義が楽しみでしたね。フィクションだしフェイクなのだが。ここで実に楽しくこの話を読んでしまったがために、完全にパラグルコースの話は信じ切ってしまったね…
最初海斗と世凪が日を浴びても何ともならなかったのに対して、この二人だけ特異体質でしたみたいなオチが用意されているのか?と邪推してしまったが全然そんなことなかったね。世凪は特異体質ではあるのだがまあ。
幼少期編はまあシャチの話とか母親との別れもあったけど、まだまだ序の口で、ここから更にエグイ展開が待ってるとはね…
幼少期編でも少し見え隠れしてたけど、青年期に入ると、世凪の感じが少し変で、海斗との考えのすれ違いを匂わせてて、おうおう不穏だなと思っていましたが、サクッと爆発しましたね。海斗がキレる気持ちも分からんでもないけど、海斗くんやもう少し落ち着きたまえ。
この衝突から一気に色んな謎が回収されていったけど、やっぱりCASE1の回収が凄かったね。ちょいちょいCASE2,3の繋がりが判明してたけど、世凪の家での世凪の告白のシーンからの流れは見事すぎる。ここで明確に各CASEの意味を理解して項垂れてた記憶。
この作品の凄いところは、こういう回収をこちら側に委ねてるところなんだよね。CGとかはインパクトあるからわかりやすいけど、それでもあくまでCASE0のワンシーンとしてであって、別に各CASEとの繋がりを明示しているわけじゃない。だからこそ自分で理解へとたどり着けるし、その分体験としてはより深いものになってて、理解した瞬間のドキドキ感がより高まった。
Switch版の特典で付いてきた冊子にもちょっと書かれてたけど、限りあるリソースの中でキャラとかCGをめっちゃ上手く使っててすごいなーって感じた。一枚絵とか立ち絵で魅せるのってやっぱり小説にもアニメにも出来ないビジュアルノベルならではの手法だから、そこを最大限に活かしてくるの本当にヤバい。
1枚絵はそれ一つでそのシーンの情景を全て伝えるものだからこそ、一目見た時の情報量は多いし、直感的にもわかりやすい。その特徴を活かして構図やビジュアルに明確な意図を持たせてくるのは中々やろうと思っても難しい芸当だと思うので、それを上手く使いこなしてて凄いなって。
後述ですが、朗読劇でも同じように一枚絵を上手く使ってて、”体験”というものをより強く感じた。
世凪と海斗の問題が解消され、研究にも精を出して…で平穏無事に進む訳もなく、研究の進行に伴ってぶつかる壁、世凪の負担の増大、世凪の告げた弱音。より強く感情が現れ始めて、どんどんと辛くなってきた。
ところで、Into Grayの「あなたの涙の理由を知っていたはずなのに」って、世凪が海斗に弱音を吐くシーンだと思ってたんですけど、これだと海斗視点になっちゃうんだよな。Into Grayは終始世凪視点の曲なので、このフレーズがどこに該当するのかがイマイチわかっていない。ただ他の部分はマジで世凪の想いがモロに食らうのですげぇ辛い。そしてめっちゃいい曲。強すぎる。
そしてついに訪れる遊馬の暴走。ただ、私は遊馬が完全な悪とも思えないなぁと。ここら辺は意見分かれそうなところですが、遊馬には遊馬なりの考えや正義があって、それはまあ根っことしては妻を助ける、という私的なものではあるけど、遊馬の正義は決して独りよがりのものでは無いのかなって私は受け取りました。難しいところではあるし、完全な善では決して無いのだけど。
なんやかんやと進んでようやくCASE0開始時点に繋がっていったわけですが、ちゃんとやってることに明確な意味づけがされていて飲み込みやすかったね。脳科学に精通してるわけじゃないからどこまでが正しくてどこからがフィクションかは分からないんだけど、脳の欠損部位に対する自助作用のマッピング、見せられる3つの夢に持たされた意味、研究施設や出雲の立ち位置とかがこじつけなくガッチリと合わせてきてて、すごかった。ここまで複雑な話になると、何かしら破綻が見えたりしがちかなって思うんだけど、少なくとも私は読んでてそういうの見つけられなかったくらいには粗のない綿密な設定で、度々ストーリー構成にビックリしてます。
ここまで過去編で、ようやく現在軸に戻ってきたわけですが、世凪の立ち振る舞いの儚さが辛い。意識を取り戻したにしても、何も覚えていない世凪の姿の辛いこと辛いこと。
遊馬からの解答編もあって、ここもまた衝撃的というか、全てを説明づける良くできた話でかつ絶望的な真実過ぎてインパクト強かった。二転三転しながら明かされていく真実が本当に面白い。
そして、覚悟を決めた世凪と海斗。「最後は笑ってお別れしようね」ってセリフがとても辛いけど良い。
これまで色々な時間を積み重ねて、衝突したり引き裂かれたり失ったりしてきたけど、その末に最後は全ての覚悟を決めて、それぞれ笑って別れようって言うの、重みが違いすぎてね。
そこから世凪の思考空間の中、凛、オリヴィア、すももと話して最後世凪と。
Into Grayが好きでずっとOP見てたんですけど、例の階段が出てきたとき、唸ってしまった。OP映像色々とあるけど今見るとめちゃめちゃネタバレなんだよな…(
世凪が記憶も無くして残り僅かの”自分”を保つので精一杯のような最後に、「こんなに私を愛してくれてありがとう」って言えるの、切なすぎる。このシーン好きすぎるのですが、言葉にするのが難しいくらいに凄い深い愛情を感じられて、これまでの全てを肯定してくれるような世凪がね…最後の最後にこの言葉を出せるのがもう。
CASE0は本当に完璧だった。これまでのCASE1~3の色々なことを回収していって、世凪と海斗の心情を描いて、二人の暮らす世界を描いて。無駄のないストーリーな上に色々なものがギッチギチに詰め込まれていて、それなのに人の感情がすごい重く伝わってくるから、没入感が強くて、ダメージも大きい。
プレイしてて割と気になるというか引っかかる部分が実はちょいちょいあったんだけど、多分気になってたところ全部回収していったので流石に驚きを通り越してちょっと引いた。
まず真っ先に気になってたのは各CASEのテーマなんですが、CASE1は小説家、CASE2は演劇・劇作家、CASE3はカメラ。CASE3はいいとして、CASE1と2はどっちも文字での創作事。時代設定も環境も全く違う3つの話の割にそこのテーマは似たり寄ったりになっちゃうのか…?と思ってたんですが、世凪が書いていたもの、という設定一つでちゃんと腑に落ちてしまうので凄い。キャラクターの類似性についても同様。
"世凪が書いたお話"っていう設定が結構色んなところで効いてるんだけど、特に良いなって思えたのはエピローグ。
基本的に本編が別れの物語として完結した後にエピローグで再開する話って好きじゃないんですけど、白昼夢に関してはCASE1~3のエピローグとして再開の物語を付加するのに十分足る理由があったから納得出来た。
じゃあCASE0は?って話なのですがまあ。ちょっとだけ配慮してくれてるなって思ったのは、PC版の本編ラストが仮想世界で世凪を語り続けた海斗の前に世凪が発現して再開して終わりって形だったけど、Switch版だと世凪との再開部分もエピローグ側になってて、本編中では再開せずに終わってたのが俺みたいな面倒な奴への配慮かなぁと思って有難かったね。
それはそれとして結局CASE0エピローグについてはどうなのって事ですが、あの流れとして本編中でも示唆されてたように、海斗が世凪のことを語り続けた結果として仮想世界の住人の共通認識として世凪が偶像として顕現した、って言うのはちゃんと理解出来たんだけど、それでもどこか受け入れられない自分が居ました。
https://x.com/hrukirby/status/1685255614245851136?s=46&t=-4GKpeP-slNy3qhGRwRYSg
そんな気持ちを解決してくれたのが朗読劇でした。朗読劇の感想は後でちゃんと書きますが、ゲーム内で描ききれなかった部分をしっかりと保管してくれて、結果として凄い良い物になった。行ってよかった。
こんな感じで、エピローグ含めて個人的に納得も出来るし話自体も面白く、それまでやってきたCASE1~3の話も凄い深いレベルで回収してきて、ストーリーとしての完成度がこれまで見てきた物語の中でもトップだと思う位には完璧だった。
白昼夢の青写真全体を通して、満足感が異常に高いお話でした。面白いし、各CASEで毛色が全然違うから長いなって感じることも全然無く飽きないで駆け抜けられた。
公式サイトの説明だかに書かれてた気がしますが、ビジュアルノベルらしさを凄い意識してて、最大限に活かしてたから、単純な物語としての完成度だけじゃなく、ノベルゲームとしての完成度も高めてきてるから、本当に素晴らしかった。でも次回作のハードル死ぬほど上がるけど大丈夫ですか...?(
Laplacianの作品はニューリンが初めてで、未来ラジオと人工鳩もキミトユメミシもプレイ済ですが、もちろんどれも面白かったけど白昼夢は明らかに1つ2つ上を行ってる。
作品が後期になっていくにつれてSF色が強くなってる感じがあったので、白昼夢はどうなっていくのかなと思ってましたが、CASE0はゴリゴリのSFしてたね...SF好きなのでそういう面でも楽しかった。丁度脳科学少し齧ってた時期にプレイしたのもあって余計に面白かった。そこら辺は十分に理解しなくてもストーリー理解には問題無いように作られてるだろうけど、理解できたら出来たでまた面白いから良い。
締めの言葉が思いつきませんが、本当に全体を通して素晴らしい作品でした。大きな熱量を持って作られたこの作品から色々な感情を受け取れました。ありがとう白昼夢の青写真。ありがとうLaplacian。
・朗読劇「白昼夢の青写真 CASE_ 誰が為のIHATOV」 感想
2023年7月29日に行われた朗読劇の感想です。ネタバレは極力控えます。
まず第一に、白昼夢の青写真の正当続編と謳われたこの朗読劇ですが、最初に言いたいのは正当続編を現地の限られた人間しか見られない朗読劇でやるな。でした。いやホントだよ全く。
でも正当続編と言われてしまったら流石に気になるよな...というオタクとして自制心0の考えでチケット申し込みました。勿論特典付です。こう言ってはアレですが、規模感として大きいとは言えないコンテンツなのでココを逃したら一生見れない可能性も充分あったので出し惜しみはしませんでした。Switch版のコレクターズボックスも割と躊躇いなく手を出したのはこういう節があるからかも。勿論作品が面白くなかったら決して手が出ないものなのでそこは自分の評価に基づくものですが。
無事特典付チケットに当選したのですが、結構落選者も居たみたいで、運がいいなと。出し惜しみしないと言ったけど正直8月9月に遠征の予定があったのでここでチケット落選したら諦めようと思ってました。あ、書いてませんでしたが東京まで往復安くても3万くらいかかる田舎に居ます。ハードルが高すぎるんじゃ。
朗読劇行くぞーとなってましたが、朗読劇というもの自体初めてでしたし、そもそもノベルゲー原作の朗読劇ってどうなるんだ?と不安もありましたが、終わってみれば凄いいいものでしたね。
朗読劇と言うだけあり、目の前で声優さんが生の演技をしてくれるなんとも贅沢な環境。幸い結構前の列を引けたので間近で見ることが出来ました。熱量も感じるし、表情まで見える。三宅さんが出雲の時真顔になるの好きです。キキとの振れ幅よ。
三宅さんだけでなく、浅川さんも杉崎さんも兼役がありましたが、あんな一瞬でコロコロと変わっていくの本当に凄かったです。実際に目で見て体感するとインパクトが凄い。パパラパハパパラパーー
そして新たに声が着いた海斗(ともう1人)、本編中だと声が無かったのでやっぱりちょっと不安は抱えてたけど、自分でもビックリするくらいスっと入ってきた。福島さんは某運がいいだけのヒキニートのイメージしか無かったのですが、全然違くて驚きましたね。熱量が凄くて、見てるこっちも圧倒されてました。
やはり圧巻だったのは、凛を海斗がギュッとする問題のシーン。福島さんと浅川さんの掛け合い、そしてシーンのイラストも相まって緊張感があまりにも高くてあのシーンは本当にあの世界の中に入って目の前に海斗と凛が居るようでした。
朗読劇と言えば目の前で生で演技をする形態が特徴ですが、今回銘打たれたのは"ビジュアル"朗読劇。その名の通りに、立ち絵はもちろん、とても1日2公演のために用意されたにしては多すぎる膨大な新規CG群。
目まぐるしく変わるシーンに合わせて効果的に使われてて、理解を促進するだけでなく、CG特有の表現方法で媒体を最大限活かしてて、流石だなと感じた。海斗の記憶が侵食されていく表現が凄いよく出来てて、やっぱりCGじゃないとあの表現は難しいだろうし、白昼夢の青写真じゃないとああいう表現の仕方は出来ないだろうから、持てるものを全てぶつけられた感じでした。ちゃんと強みを理解して十二分に活かしてるから面白いし、オタクとして嬉しい気持ちになれる。どの立場で語ってんだお前は。
朗読劇のストーリーとしては、勿論とても良かった。正当続編と謳うだけあってちゃんとその後の世界を描いてたし、本編の補完であったりさらにその後の希望を見せてきたので、あの短い尺の中に欲しいものが沢山詰まってた。
CASE0感想の方でもちょっと出してましたが、世凪の扱いというか立ち位置について、ここで明確に補完されてて、そこは凄い良かったというか有難かった。
https://x.com/hrukirby/status/1685255614245851136?s=46&t=-4GKpeP-slNy3qhGRwRYSg
再掲
この朗読劇の軸の1つに、本編中に遊馬が言った大切な人を守る為なら何でもするっていうところがあると思うのですが、朗読劇のあの空気感でその命題を提示されるとより臨場感というかリアリティがあって恐ろしかったね...
朗読劇という媒体は、よりキャラの感情とかが伝わってきやすいものに感じるので、結構苦しいものがあった。
今回の朗読劇、まあ最初は思う所もあったけど、行けてよかったなぁって思えるくらいにちゃんと良い物を受け取れたので嬉しいです。また新たな白昼夢の一面を見れた気がするのでこの作品のポテンシャルの高さを感じました。
アニメ化が〜とか時々言われたりしますが、この作品をアニメ化しようとしたら4クールは最低でも用意しないといけなさそうなので、中途半端にやってしまうと駄作になりそうなので怖いね〜(取らぬ狸の皮算用)
また色々な形でこの世界を見たいなと思えた。でもせめて配信くらいはやってくれると助かるぜ...
随分長々と語りましたが、白昼夢の青写真の感想はこれにて終わり。綿密に練られたストーリーと多様で効果的な表現があって、ビジュアルノベルとして最高の一作でした。次回作も待ってます。
2023年8月19日